先日、イエモンの淡い心だって言ってたよの歌詞を改めて眺めていて、「あれ?この恋人死んでない?」と、ふと思ったわけです。
そこから歌詞を読んでいったら、なんというか、イエモンの奥深さに触れてしまったので、以下にまとめようと思います。
最初こそお昼寝の君を見てる
だとか、いちゃいちゃしているかのような歌詞ですが……
シーツはなんともう7週間ろくすっぽ変えてないのに
変えたくない気持ちのほうが今はかなり優勢
の辺りから不穏さが混じってきます。
なぜ7週間なのか。7週間×7日、つまり四十九日です。日本では葬儀といえばまあ仏教です。詳しい話は避けますが、故人は死後49日で行き先が決まる(この世からはいなくなる)とされています。この歌の語り手からすれば「君」が本当にいなくなってしまうということになります。
シーツを変えたくないのは、「君」の残り香が消えてしまうからです。この要素は、この歌で初めて触れられる要素ではありません。すでにこのアルバムの中で何回か語られています。
まず、HOTEL宇宙船より
キンモクセイの香る思い出が好きだよ
ずっとこれが嗅げればいいないいな
キンモクセイの香る寂しさが好きだよ
ずっとこれが嗅げればいいないいな
ずっとこれが続けばいいないいな
次に花吹雪
夢に包まれた ほんのささいなあの時の
君の匂いは恥じらうしたたかな花
この3曲は話がつながっています。「君の匂い」をずっと嗅いでいたかったけれど、喪われてしまった、という文脈です。
君が好きだよとてもとてもとてもメビウスです
さっき見た天使がそれは淡い心だって言ってたよ
メビウスはもちろん「メビウスの輪」です。「君」にいくら思いを伝えようとしても、もはや「君」には届かないという意味になります。
唐突に現れる天使ですが、これはメビウスの輪→天使の輪という連想かな。ここの解釈はそんなに根拠はありません。
どうして大切という字は大きく切ないのかな
はもう言うまでもありません。
デフォルメした思い出
はHOTEL宇宙船の内容を指しているのではないかと考えられます。デフォルメしてるとしか思えないぶっ飛んだ歌詞です。
そのHOTEL宇宙船のラストはずっとこれが嗅げればいいないいな
、アハハ くすぐったい
の繰り返しの後、演奏と歌のピッチを下げていきます。限界までピッチを下げたあと時計の秒針の音に変わり、歪んだギターが乗り、次の花吹雪になります。
この演出は1stアルバムのSong for Night Snails~Subjective Late Showの再現でもあるし、この次のアルバムPUNCH DRUNKARDのボーナストラック(球根のスロー再生)も思わせますが、ここでの音声の加工が意味しているのは、「HOTEL宇宙船は回想(妄想・思い出)シーン」であり、「HOTEL宇宙船と花吹雪の間で結構な時間が流れている」という事です。
これはHOTEL宇宙船に登場する花が紅いコスモス
やキンモクセイ
(秋)であり、花吹雪は桜
(春)であることからも、半年以上は経過していることがうかがえます。
(桜と秋桜の対比であったり、「桜の樹の下には死体が埋まっている」という梶井基次郎の一節を連想させます。もう少し脱線すると、キンモクセイの花言葉の一つに「陶酔」があり、赤いコスモスには「愛情」「調和」がありますが、歌詞で出てくるのはビリビリ破れてけ紅いコスモス
です。不穏)
花吹雪の君と死にたい
はかなりストレートですね。「君」の後を追いたいというそのままの意味で捉えていいと思います。
話したい事 山のようにあったけれど
もうどうでもいい 今は君に触りたい
ここは、淡い心の
この話はやめとこう君に嫌われそうだ
そんな事よりこっちへディナータイムは君がいい
ここと符合します。
荒れ狂う花吹雪と、落ち着いた淡い心だって言ってたよは対極のようで、実は同じ感情を歌っているのかもしれません。
君と死にたい
から接続されるのが天国旅行です。
汚れた心とこの世にさよなら
は近いことを言ってますし、
ニセモノな安らぎでもいい
薄れていく意識の中のVTRは回る
思い出せるだけ思い出して遊びたい
つらい事うれしい事
狂ったように愛し合った事
この部分からはHOTEL宇宙船につながります。ニセモノな安らぎ
は回想・妄想の中で過ごしていることを思わせます。
僕は孤独なつくしんぼう
は、春に一人ぼっちでいる、という部分を強調しています。男性器のイメージにもつながります。この歌全体を通して、自慰行為に耽っているようにも読めます。
せまいベッドの列車
は、本当に列車で旅に出ているのか、あるいは自宅のベッドで妄想に耽っている(「トリップ」している)だけなのかは分かりませんが、どちらにしても「7週間ろくすっぽ変えてないシーツ」は敷かれていそうです。
けしの花びら
はドラッグを思わせます。赤いけしには「慰め」、白いけしには「忘却」という花言葉があるようです。
自殺の歌なのか、ドラッグに溺れる歌なのかはどちらとも決めがたいですが、思い切り悲しいコードとメロディから絞り出される天国が好き 僕は幸せ
は、どう見ても幸せそうではありません。
そんな、夢か現実かの境界が危うい天国旅行から接続されてしまうのが創生児です。
天国か地獄か生きるか死ぬかさ今は
人がいない海がいいな
ストーリー上、この歌は
兄と弟と称されてはいますが、一人の人格の中でせめぎあってるような歌ですね。
悪い奴はバチが当たるよ
弱い奴は生き残れない
この語り手にバチが当たったのか、生き残れなかったのか。どちらにしても、「君」を喪った語り手は天国を自称する地獄の苦しみに合うことになります。
この話、めちゃめちゃ長くなりそうなので、途中ですがとりあえずここまで。